寿永二年のこと

亀の前騒動で年が暮れた寿永元年までが吾妻鏡の第2巻。さて、第3巻の正月の記事を読み始めると、 「一日辛卯霽 鶴岡八幡宮有御神楽、前武衛無御参宮。去冬、依広常事営中穢気之故也」。年末に何かあったっけ? と思ってよく見ると、寿永2年(1182)がすっぽり抜け落ちて寿永3年に飛んでいるのです。これは編纂ミスではなく故意に寿永2年分を抜いてあるのだと言われています。寿永2年は頼朝の叔父である志田義広の乱が起きたり、木曽義仲が上洛を果たして平家が都落ちしたり、その義仲は反頼朝であったりと大きな出来事が続いて、幕府の公式記録に載せては都合が悪いことも多かったのではないか─ということです。
そんな寿永2年の12月に、関東の一大勢力だった上総広常が頼朝の命によって殺される事件がありました。それが吾妻鏡のいう「広常の事」。上総介広常、頼朝とすれば第一印象からして悪かったんでしょうね・・・勢力が大きいから功績も大きい。その分、態度も大きくて他の御家人たちといざこざを起こしたりもしています。広常を殺す役目を命じられたのが梶原景時、首尾よく討ち取っています。しかし寿永3年正月、上総国一宮に広常が奉納した鎧から「所奉祈武衛御運之願書」が見つかって「不存謀曲之條」が明らかになり、頼朝は後悔して囚人となっていた広常の縁者を許したと吾妻鏡には書いてあります。




広常誅殺の時のことは、天台座主慈円が『愚管抄』に、頼朝が院(後白河法皇)に語った言葉として書いた部分が具体的です。

  ・・・功アル者ニテ候シカド、トモシ候ヘバ、ナンデウ朝家ノ事ヲノミ身グルシク思ゾ。タゞ坂東ニカクテアランニ、誰カハ引ハタラカサンナド申テ、謀反心ノ者ニテ候シカバ、カゝル者ヲ郎従ニモチテ候ハゞ、頼朝マデ冥加候ハジト思ヒテ、ウシナイ候ニキトコソ申ケレ。ソノ介八郎ヲ梶原景時シテウタセタル事、景時ガカウミヤウ云バカリナシ。双六ウチテ、サリゲナシニテ盤ヲコヘテ、ヤガテ頸ヲカイキリテモテキタリケル、マコトシカラヌ程ノ事也。(岩波書店の日本古典文学大系『愚管抄』より)

景時は広常と双六をして、油断したところを双六盤越しに討ち取っています。吾妻鏡に「営中穢気」とあるから大倉御所の中の出来事。侍所あたりでしょうか、双六などしてくつろぐ場もあったということがわかります。景時はこういう策を用いるところが後世、悪役にされてしまった一因と思われますが、当時は騙し討ちというのは珍しいことではありません。慈円は「功名いうばかりなし」「信じられないほどだ」とほめているくらいです。大ごとにせずに広常一人を討つ策を巡らすことができる人物、としての人選だったと思うのです。これが畠山重忠とか三浦義澄とかだと真っ正直に正面衝突して大勢力同士の合戦になりかねず、そうなるとせっかく纏まってきた関東が分裂してしまう。要領の良い景時なら─という頼朝の信任が見えます。

それから、謀反心というものが吾妻鏡の認識とちょっとずれているような気がします。吾妻鏡を読んでいると、頼朝に対する謀反の疑いがあったけど鎧から出てきた願書で潔白が証明された、という風な印象を受けますが、愚管抄で語られる頼朝の言葉が事実なら(史料としてはこっちの方が吾妻鏡より時代が近く信憑性が高いと思いますが)、朝廷に対して不遜な発言が多い広常を配下に抱えていては頼朝まで朝廷の反感を買ってしまう、という判断が為されたことになります。朝廷と距離を置きつつ友好を保って幕府を創るところまで持っていく難しいことをしている時に、配下の最大勢力が関東独立を主張していてはまずいのです。一方で、関東の御家人たちの中には広常同様、朝廷なんか関係ないよ、関東は関東で勝手にやればいいじゃないか、という雰囲気も多分にあったのではないでしょうか。朝廷への謀反心があるから広常を討つ、というのでは関東勢は納得しないから頼朝への謀反心がある、ということにした─というのは私の想像にすぎませんが、関東で書かれた吾妻鏡と京で書かれた愚管抄とのずれがこれで説明できるかと。
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by kyougen-kigyo | 2013-04-06 21:00 | 考察編


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