椀飯のこと

椀飯(オウバン)の話が出たので、ちょっと詳しく書いてみたいと思います。

椀飯とは、狭義にはハレの日に出される、高坏に盛り上げるようにした飯です(絵巻物など見ていると時々出てくる)が、その高盛りの飯を含む食膳全体、さらには酒宴を指すようにもなります。ここは中世の用法で多い広義の椀飯、酒宴を対象にします。
吾妻鏡には、前回書いた「三浦介義澄献椀飯」のように御家人が鎌倉殿(と随従する他の御家人たち)に酒肴を用意して饗応する椀飯が頻繁に出てきます。同じ席で食事をすることで連帯感を強め上下関係を確認する意味が強く、椀飯は武家社会において重要な儀式でした。この場合の「上下関係」には、「鎌倉殿と御家人」という関係の他に、「御家人同士の格付け」も含まれる、と考えてよいでしょう。主君の御前ですから、ここで確定した席次は公式の格付けでもあるわけです。
鎌倉幕府初期の椀飯はそれほど大げさではないのですが、体制が固まるにつれて、何日も続く儀礼の時には4人も5人もの御家人が持ち回りで椀飯を振る舞うようになり、その結果、吾妻鏡の正月の記事には毎日「○○献椀飯」の文字が並ぶことになります。当番の御家人の間で椀飯の内容の見事さを競うことにもなったでしょう。

では椀飯の中身は、という話になると、中世以前の食を伝える史料は多くはなく、具体的にどういう料理が並んだかは同時代には当たり前すぎる話なのであまり書かれていません。吾妻鏡には、例えば
  治承五年六月十九日 義澄搆盃酒椀飯殊尽美
  文治四年三月二十一日 梶原平三於御所経営頗尽美献盃酒椀飯
  建久二年十二月一日 北條殿被献盃酒椀飯
「盃酒椀飯」とセットで出てくることが多い、すなわち酒は必ず付いていたわけです。ご飯と、酒。となれば肴が欲しいところです。鎌倉時代の酒の肴って、何だろう?



北条時頼がかわらけに残っていた味噌を肴に酒を飲んだ話は有名ですが、それは質素倹約の代表格ですから椀飯の参考としてはあまり使えません。

何か良い資料はないかと群書類従を繰っていたら、飲食部に「厨事類記」というのが収録されていました。鎌倉時代の著と思われ、宮中の膳の様子が記されている貴重な文献です。それを見ると「汁物」「焼物」「魚味」「菜」「菓子」などの言葉が出てきており、後半には食器の詳細(宮中ですから螺鈿細工のついた盤や銀器と豪華ですが、かわらけも多用されていたようです)や、料理の内容についても書かれています。料理に触れた「調備部」の最初には
  四種器。
   酢。酒。鹽。醤。
とあって、これは調味料を入れた4種類の皿が膳に添えられていたということ。「酒」は調味料っぽくないですが、前半に載っている配膳の図を見ると同じ形の小鉢が4つ並んでいて「御酒盞」は別に描かれているので、飲む用の酒ではなさそう。「醤(ヒシオ)」は今の大豆醤油ではなく魚醤などを指します。時頼が肴にした味噌も、こういう形で膳に添えられていた調味料の残りだったのかもしれません。ちなみに、多用されていた素焼きの土器=カワラケは質素な感じがしますが、1回限りの使い捨てですから清浄な器、という意味もあります。

その他の料理を詳しく見ていくと、「窪器物」(クボツキ=窪んだ器=鉢に盛るもの。後の方に「醤類也」とあるので塩辛のようなものでしょうか)としてクラゲやホヤ、干物には「干鳥」(雉を塩漬けして干して削ったもの)・「楚割」(鮭を塩漬けして干して削ったもの)・「蒸鮑」(鮑を蒸して干して削ったもの)・「焼蛸」(蛸を焼いて干して削ったもの)。生物(「膾」と割注あり)には鯉・鯛・鮭・鱒・鱸・雉。「鯉ナキ時。鮒ヲモル。」とか「雉ナキ時。カツヲ魚ヲモル。」など、食材が手に入らなかった場合の注意書きもあります。頻出するのは雉。今昔物語集などにも雉の話はよく出てくるので、当時はなじみのある食材だったのでしょう。

以上は宮中の話なので最高級の食事といえますが、どうも塩漬けや塩辛が多くて高血圧になりそうな・・・それだけ新鮮なものが貴重だったということですね。干物・塩辛は保存食ですから、素材の良し悪しはともかくとして、武家も庶民も食べていたでしょう。肉類は上流貴族の間では仏教による肉食禁止の思想が広まっていたので鳥肉を除いてはあまり出てきませんが(魚と鳥はいいのか?と突っ込みたくなりますが)、労働量の多い庶民にとって獣肉は当然、貴重なタンパク源です。狩猟が軍事訓練でもあった武士の間でも、鹿や猪を日常的に食べていたはず。海から遠い京の都と違って、鎌倉は海辺だから新鮮な魚介も簡単に入手できます。案外、鎌倉人は京の殿上人よりいいものを食べていたかも?
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by kyougen-kigyo | 2012-12-20 20:28 | 考察編


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